命を諦めなかった男


「俺は、まだ死なない」

その老人は、医者に向かってそう言い放ったらしい。

研究者の元に、秋田の田舎のから突然ふらりと現れた、得体の知れない老人。

けれど、その言葉には強がりでは済まされない、妙な迫力があった。

前立腺ガンはすでに進行し、数値も深刻だった。
医者からは、もう「準備をしなさい」と言われていた。
それでも老人は、死ぬ支度より先に、生きる方法を探した。

薬も試した。
健康食品も試した。
効くと言われるものは、片っ端から口にした。

「シベリアのとある村では一切ガンにならないエリアがある」
そんな話も聞きつけ、最後の望みをかけ特別なキノコをシベリアから調達したりもした。
その名は、チャーガ。和名では、カバノアナタケ。


――だが、何も変わらなかった。


そんなとき、老人はある仮設を立てる。
「キノコの力は、そのままでは人の体に届いていないのではないか…?」

理由は、細胞壁。
キノコは菌類であり、その細胞は硬い殻のような壁に守られている。
どれほど有用な成分を抱えていても、その鎧が壊れなければ、体は十分に受け取れないのではないか――。
老人はそこに執念を見た。

そして、ひとりの研究者を訪ねてきた。

その研究者は、もともと酒の研究をしていた。
国の研究機関で、麹菌や微生物を扱い、細胞融合の研究に没頭していた若い頃がある。

細胞は、ただ並べても簡単にはくっつかない。
なぜなら、みな鎧を着ているからだ。

その鎧をどう外すか。
どうすれば裸になった細胞同士を出会わせ、新しい可能性を生み出せるのか。

世界中が挑んでいた難題に、彼もまた挑んでいた。

蟹や海老の殻。
硫酸。
洗浄。
乾燥。
試行錯誤の果てに、細胞壁という頑固な守りを外す技術へと、少しずつ手を伸ばしていった。

濃度を変える。
温度を変える。
何度失敗しても、またやる。

そしてある日、ついに二つの細胞が、ぴゅっとくっついた。

「くっついた!」

その瞬間の興奮を、彼はたぶん一生忘れない。
世界で初めてに近い成功だった。
日本が、世界より先に扉を開いた瞬間でもあった。

だが彼は、その研究が、何十年もあとになって、
ひとりの老人の命と交差するとは思っていなかっただろう。


老人は、その技術を自分がみつけたキノコに応用してほしいと言ってきた。

正直、まともな話には聞こえなかった。
もうそんな研究を本業でやっているわけでもない。
手間もかかる。金にもなりにくい。
断っても不思議ではなかった。

けれど、老人は引かなかった。

「金はいくらでも出す。とにかく、やってくれ」

その言葉の奥にあったのは、金ではない。
「自分はまだ終われない」という執念だった。

そこで研究者の彼は、昔の知識をたぐり寄せる。

菌の細胞壁を壊す酵素。
組み合わせ。
温度。
時間。
条件が少しでもずれれば、溶けない。
強すぎれば壊れる。
弱すぎれば意味がない。

そうしてようやく、キノコの細胞壁を穏やかにほどく方法にたどり着いた。

どろり、と。
それは溶けた。

硫酸ではない。
毒でもない。
飲める形で、細胞の壁だけを崩すことができたのだ。

「これは、できるかもしれない」

その瞬間から、ただの思いつきは、現実に足を踏み入れた。

老人は、それを飲み始めた。

毎日。
ひたすら毎日。

一か月後、病院へ行く。
高かった数値が、下がっていた。

二か月後、また下がった。
さらに下がった。
医者も無言になるほど、数字は変わっていった。

やがて、160あった値は24まで落ちた。

もちろん、それだけで何もかも説明できるわけではない。
生きることは、そんなに単純じゃない。
けれど、少なくとも老人は、医者に「準備しろ」と言われた場所から、自分の足で引き返してきた。

遺言も書いた。
財産も分けた。
自分はもう長くないと、一度は腹をくくった。

それでも、死ななかった。
むしろそこから、
まるで命を拾ったぶんだけ、
人生をもう一度使い切ろうとするように、
老人は世界を走り回り始めた。
老人はさらに自由になって、その後20年生きた。


人は普通、年を取るほど守りに入る。
失うことを怖がる。
けれどその老人は逆だった。
死を見たからこそ、残りの人生を縮こまって終える気など、さらさらなかった。

奪われそうになった命を、もう一度、自分のものとして使い切る。
そのためなら、国境も、常識も、危険も飛び越えていく。


若い研究者が、かつて夢中で積み上げた知識。
すぐには役に立たなかった技術。
遠回りに見えた時間。
それらが何十年後、ひとりの老人の「まだ死なない」に呼び出される。

人生は、すぐに意味を見せてくれない。
でも、消えないものはある。
いつか誰かの絶望に届くために、黙って残り続けるものがある。

老人は、命を救ってもらったのかもしれない。
けれど同時に、研究者の過去もまた、その老人によって救われたのだ。

あの日、細胞をくっつけようと格闘していた若者の時間は、
無駄ではなかったと証明されたのだ。

人は、本気で生きようとしたとき、運命を書き換えられる。
あなたも、まだ諦めてはならない。

問い合わせ先
info@selfmaintenance.org

細胞壁融解処理をすることでベツリン酸などの有効成分を人体に吸収させ、
100キロのシベリアンチャーガを5キロにまで高濃縮した製品となっています。