「免疫」の本質は生体防御にあらず?〜この世界に敵も味方も存在しないという話
免疫のことは、これまでわりと取材してきましたが、なかなか複雑で覚えるのが大変だな〜という最初の感想を少し通り過ぎた頃、
あれ、なんだかこれは妙な気がしてきたな。。。
と思えることがいくつか出てきました。
たとえば、病原菌やウイルスが体内に侵入してきた時、全身の細胞に備わった自然免疫のセンサー(TLR)が作動して、初期消火にあたることがわかっていますが。。。
じつは、TLRなどのパターン認識受容体が認識する成分は、病原体由来のものだけではなかった。わたしたちのからだの自己成分の一部も認識することがわかってきたのだ。それらの自己成分を「内因性理ガンド」という。
審良静男・黒崎知博『新しい免疫入門〜自然免疫から自然炎症まで』より抜粋
自然免疫のセンサーはマクロファージのような免疫細胞にも備わっていて、ウイルスが侵入してくると、インターフェロンのような物質を出して、増殖を抑えます。
この段階での対応がうまくいけば感染は防げるし、取りこぼした病原体があっても、獲得免疫であるT細胞などの働きで抗体がつくられるため、重症化を防ぐことも可能なわけです。
それについては過去のブログで触れてきましたが。。。こうした自然免疫のセンサーはなんと自らの細胞にも向けられるというわけです。
そうなると、マクロファージ、好中球などの食細胞は、病原体だけでなく内因性リガンドを認識しても活性化し、炎症をおこすことになる。病原体が引きおこす炎症に対して、病原体がかかわらないこの炎症を「自然炎症」という。
審良静男・黒崎知博『新しい免疫入門〜自然免疫から自然炎症まで』より抜粋
自然炎症?? 初めて耳にしたときは「要は自己免疫疾患の話なのかな」とも思ったのですが、どうもそれだけではなさそうで。。。
一応、自己免疫疾患についても触れておくと。。。
自己免疫疾患(じこめんえきしっかん、英:Autoimmune disease)とは、異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで症状を起こす、免疫寛容の破綻による疾患の総称。
自己免疫疾患は、全身にわたり影響が及ぶ全身性自己免疫疾患と、特定の臓器だけが影響を受ける臓器特異的疾患の2種類に分けることができる。関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)に代表される膠原病は、全身性自己免疫疾患である。
wikipedia-自己免疫疾患より抜粋
自然免疫のセンサーはパターン認識するだけのシンプルな働きなので、「自己」と「非自己」の区別がちゃんとつかない、ということなのでしょう。
ここでいう自己とは、体の成分。食べ物の栄養も取り込まれて体の成分になるので、「自己」としてとらえられます。
一方、「非自己」とはからだの成分にはなり得ない、菌やウイルスなどの病原菌のこと。
自己と非自己の境界はきっちり区分けされていないため、本来は「自己」であるはずの食べ物の栄養を「非自己」と見誤り、過剰反応することでアレルギーが起こったりもするわけですが。。。問題はここにとどまりません。
たとえば、なんらかの理由で細胞が大量に破壊され、成分が飛び散った場合でも、自然免疫のセンサーはパターン認識してしまいます。
その一つが、次の「虚血再灌流障害」と呼ばれる血液中の炎症です。
虚血再灌流障害とは、脳梗塞や心筋梗塞で虚血状態にある組織や臓器にふたたび血液が流れ出したとき、強い炎症が局所的または全身でおこるものである。
これは、虚血によって大量の細胞死が起こり、そのなかの成分が血管内皮のTLR2、TLR4、TLR9を刺激して炎症を起こすためである。
審良静男・黒崎知博『新しい免疫入門〜自然免疫から自然炎症まで』より抜粋
じつはこの虚血→再灌流というプロセスは、ストレスによっても引き起こされることがわかっています。そう、ストレスでも自然炎症が生じてしまうわけです。言い換えれば、ストレスにも免疫は反応する。。。
ちょっと専門的ですが、以下のインタビューをご覧になってください。
――交感神経、ストレスが過剰になると炎症が増加してしまうということですね。
村上 そうです。私たちが次に証明したのは、痛みですね。そこにストレスも関わってきますが、この痛みの刺激を導入すると脊髄のお腹側の2本の血管が特異的に変わります。私たちは中枢に注目しているのですが、胃、肝臓、腎臓などの一般臓器でもいずれかの部位の血管が変化する可能性もあります。こういうことは、すでにわかっているんです。
――血管の(免疫細胞のための)ゲートが開くという言い方をされていますね。これって、日常的などこかぶつけた時の痛みではないですよね?
村上 慢性的な痛みですね。慢性的ということが重要で、それがおそらく慢性炎症にも通じるものだと思います。たとえば、歯が痛いとか……。(中略)そういう慢性的な痛みでどこかの血管で炎症回路が活性化し、そこで炎症がどんどん起こるような状況にはなっていると思いますね。
――なるほど。身近な例になりますが、肩こりのような慢性痛も炎症に関係しているのでしょうか? 肩こりがひどい人はかなりいますが、なかなか治らず、ずっと悩んでいるじゃないですか? それもサイトカインが関係を?
村上 交感神経が活性化することで、どこかの部位の血管で炎症回路が活性化し、IL-6とかグロースファクター(成長因子)、ケモカインなども出ますので、(肩こりの場合も)炎症が関連している可能性はあると思います。
「炎症回路」の活性化が多くの病気の発症につながっています(村上正晃インタビュー①)
もちろん、炎症の対象になるのは歯痛や肩こりだけではありません。
最近の研究では、「こうした炎症がほとんどすべての病気の発症に関わっている」ことがわかってきているようです。
村上 私たちの研究では「炎症回路が……」という形で論文発表していますが、炎症回路が自己免疫疾患をはじめ、メタボリック症候群、アルツハイマー、パーキンソン病、ALSを含む神経変性疾患、あるいはアトピー、アレルギーなどの多くのヒト疾患に関わっているということは、2013年に証明しています。
精神疾患についても、てんかんや統合失調症のように、もともと免疫との関係が指摘されていたものはありますが、全体で見るとあまり関連づけられてなかったですよね。私たちはそうした精神疾患との関わりも証明しましたから、多くの病気に炎症回路が関係していると言って間違いないと思います。
「炎症回路」の活性化が多くの病気の発症につながっています(村上正晃インタビュー①)
うつのような精神疾患も、ここでは触れられていませんがガンなども。。。要は「すべての病気が炎症由来」ということになるわけですが、ここで「何が炎症を起こしているか?」を思い出してください。
もちろん、免疫ですよね。白血球のような免疫細胞もそうですが、自然免疫のセンサーはすべての細胞が持っていますから、それは細胞の働きでもあります。
そう、細胞が細胞を攻撃して、炎症を起こすこともあるわけです。
ひるがえって、免疫とは何かを考えたとき、おやっと思いませんか? 通常は「疫(病気)を免れる」仕組み、すなわち生体防御の働きのことを指しますが、なんと「免疫=病気をつくる」仕組みでもあるという。。。笑
こうして見ていくと、「免疫力」という言葉もなかなか一筋縄ではいかないことが見えてくるでしょう。
「免疫力」と呼ばれるものは確かに体に備わっていますが、それは「敵(異物)をやっつける」働きというわけではなく、そもそも敵味方の区別すら明確にはないということ。
この世界に存在するものを敵と味方に分けるのは、あくまで人間側の概念(思い)であって、そのフィルターで体(免疫)の働きをとらえようとすると無理が出てくるという。。。まずそこに気づくべきかもしれません。
では、敵も味方もないとしたら、免疫は何をやっているのか?
そこに深く関わってくるものをシンプルに表すなら、おそらくストレスでしょう。
多くの人が勘違いしているのかもしれませんが。。。病原体が侵入してきたからといって、すぐに増殖し、発症するとは限りません。
そもそも、体内には無数の菌が常在していますが、多少悪さをする菌であってもつねに排除されるというわけでもありません。
このあたりの「敵・味方」を峻別しないファジーさは「免疫寛容」と呼ばれていますが、前述した自己免疫疾患のように、この寛容性が時として破綻して細胞が攻撃されてしまうケースもあるわけです。
いや、自己免疫疾患にかかる人は全体のわずかですが、ストレスは誰もが抱えていますね?
重症化しないレベルであっても、じわじわと細胞を蝕む慢性炎症は、生きている限り日常的に体験していることです。
その過程で生じた「局所的な炎症」を放置することで、様々な病気が生まれ、場合によって死にも至るメカニズムは、外部からの病原体に対応する免疫の働きのもう一面、コインの裏と表ということになるでしょう。
繰り返しますが、ウイルスや病原菌が侵入してきたからと、一気に増殖して、発症につながるわけではありません。
やはり、ウイルスも病原菌も「敵ではない」のです。
一つ一つの病気の発症メカニズムはわかっていないものも多いですが。。。大きな括りで見たら、過剰なストレスで体のバランスが崩れ、非自己(病原体)に対して、そして、自己(細胞)に対して炎症反応が引き起こされるということでしょう。
菌やウイルスは一つの引き金ですが、たとえば炎症がが増幅してサイトカインストームのような過剰反応が起こる。。。
その原因は、要は自分の側にあることになりますよね?
自分自身の生きるバランス。。そのバランスの微妙なズレが炎症として現れ、僕たちの体はそれを違和感として認識する。
敏感であれば違和感は行動変容につながり、外界との関わりが微調整される。
うまくいかなければ、炎症=違和感は広がり、心地よく生きることがだんだん危うくなっていく。。。
そのあたりのカラクリがわかってくると、体に起こっている現象を病気と健康という二元論で括ること自体も怪しくなりますよね?
いや、「物事を二元論的にとらえる弁証法的発想にそもそもの問題がある」ということも見えてくるかもしれません。
ちょっと哲学めいた話になりますが。。。弁証法的な二項対立は、人間の頭(頭脳思考)が好き好んで行う認識の仕方になりますが、あくまでも「物の見方の一つ」であって、世界の本質そのものではないでしょう。
「この世界には敵も味方も存在しない」というのが本当なのです。もちろん、善も悪もないし、正も邪もない。。
そうした「前提」を見失ったまま(従来の二元論的な発想から抜けきれないまま)免疫という現象をとらえたら、生体防御というわかりやすい仕組みだけが浮かび上がり、その働きが矮小化されてしまうでしょう。
病気になることは炎症反応の一つであり、体にとっては不快なことですが、この世界で外界の刺激を受けながら生きていくなかで炎症はたえず起こります。
それが生きるということで、免疫は体に備わったホメオスタシス(恒常性)の一つとして、たえず反応を繰り返します。
初期段階で鎮火させるのも免疫(自然免疫)の働き、放置してだんだんと炎症を慢性化し、自らの細胞を傷つけるのも同様。。。
免疫の働きが「ニュートラル」なものである以上、そのどっちつかずの繊細な働きをどう扱っていくか? 。。。それはどう生きるか? この世界にどう向き合うか? そんな自己のあり方にもつながっていきます。
もちろん、このブログで繰り返し扱ってきているセルフメンテナンスのカギも、そのあたりに隠されたりしているわけです。
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