「エステティックは、おしゃれをする、美味しいものを食べる……そうした自分を豊かにすることのひとつです」(須藤政子インタビュー②)
エステティックサロン、ヘアーサロン、スポーツジム、アイビューティサロン……「トータルビューティー」を国内外で展開してきた「ソシエ・ワールド」の代表として、美と健康の最前線を走り続けてきた須藤政子さん。
代表を退いた2016年、エステシシャンやセラピストのキャリアアップを全面サポートする「株式会社TESIOインターナショナル」(テシオ)を創業。その情熱は衰えることなく、生涯のテーマである「美を通して命を輝かせる」生き方を日々追求されています。
美容の世界の常識を打ち破り、「革命」を起こしてきた須藤さんのバイタリティーの源泉はどこにあるのか? 多忙をきわめる日常のなかで、どのように夢や理想を追い、心身の健康を保ってきたのか?
セルフメンテナンスを探究する「ゆかしい」こと中村友香(セルフメンテナンス協会理事)とともに、じっくりとお話を伺いました。
今回はその後編。2021年5月、都内にて収録。(長沼敬憲)
★前編はこちら
「エステシシャンに必要なのは、お客様の心を開いていく『引き出し力』なんです」(須藤政子インタビュー①)
「トータルビューティー」という夢に向かって進んできました。
――仕事が楽しく、朝になるのが待ち遠しい……、須藤さんのそうしたエネルギーの源泉はどこにあったんでしょうか?
須藤 やっぱり、ちゃんと実績が見えてくるところですよね。店舗を出していく、そこに人が増えていき、年商も増え……そうやって自分の城が出来上がって、信頼してくれる人が増えてくると、変なことはできないなと思うじゃないですか。
――心が揺れるようなことがあった時、どう対処されていたんですか?
須藤 辞めたいと思ったことも何回もありましたけれど、私の場合、創業者が信頼してくれていたのが大きかったですね。自分のことを信頼して任せてもらえた、そういう面で責任感がありましたし、なによりも夢がありました。
――夢というのは?
須藤 美容からトータルビューティへ……、ワンストップショップといいますが、お客様がひとつのところで綺麗になっていくサロンができないか。私たちは、サロンづくりの新しい形態をつくっていきました。
――そうしたビジョンは、いつ頃から須藤さんのなかで芽生えたんですか?
須藤 私は経営者と一心にやっていたので……。経営者の考え方とか、社員はなかなかわからないと思いますけれど、私たちの間で共通していたのは、「いまの美容業界だけではだめだろう」ということでした。
痩せないと大変だよとか、脱毛しないと結婚できないよとか、エステティックはそんなネガティブ商品ではなく、おしゃれをする、洋服を買う、美味しいものを食べる……そうした自分の生活を豊かにすることのひとつです。だから、ホテルに入ったり、百貨店に入ったり、出店場所にこだわってきたわけです。
――ああ、エステが生活を豊かにしてくれるんですね。
須藤 当時、それこそ有閑マダムが行くような高級サロンと、脱毛などをメインにするもう少し層の低いサロンと、どちらかに分かれていました。私たちは、そのどちらでもない層のお客様をターゲットにしました。そのため、最初にエステティックに参入した時には、エステティック・レボリューションということを打ち出しました。
――エステティック・レボリューション。
須藤 そう。それで、美容もできて、メークもできて、リラクゼーションもできて……そういう個室のサロンを銀座に初めてつくりました。既存の業界のなかに自分たちの考え方は相容れられない、もっと違ったものをつくっていこうということがベースにあったので、新しいことにつねにチャレンジできました。
――それがモチベーションになったんですね。
須藤 いま思うと、そこが大きかったと思いますね。単調にサロンをオープンしていくのではなく、そのエリアに合わせてどのようなサロンをつくるのか? ターゲット層はどうするのか? そこにはどのような設備を入れていくのか? そうやって一つ一つつくっていくことが、モチベーションを維持してきた一番の要素だったと思いますね。
――須藤さんが思い描いている美容というのは……。
須藤 やっぱり、お客様が敷居高くなく来られることですよ。脱毛とかニキビももちろん大事だけれど、もっと豊かさの根源の部分に目を向けてほしいですよね。(エステをすることによって)自分自身に自信が持てるようになり、それが仕事に結びついたり、ご夫婦との関係が良くなったり……。
――それは、おしゃれをしたり、美味しいものを食べたり……。
須藤 そう、豊かさっていっぱいあるじゃないですか。エステもその一つだと思うんですよ。フェイシャルなんて特にそうですが、美容整形じゃないから、今日やってすぐに変わるわけではではないですよね。それでも継続していくことにお金がかけられるのは、やっぱりサロンに行くことが楽しいとか、あのエステシシャンにやってもらえて嬉しいとか、エステテシャンの手が触れていくことへの安心感、そして手から伝わるエステテシャンの優しさとか、それが大事なことだと思います。
――根源的にあるのは、安心とか癒しなんですね。
須藤 業界で初めてサロンをすべて個室にしたり、サウナを入れたり……ナノサウナを業界で初めて入れたのもそうですし、スポーツジム入れて、プールを入れて、そうやってエステティックという概念から外れていくような、「トータルビューティ」のスポットを私たちはつくってきました。
――文字通り、新しい分野を切り開いてこられたんですね。人生の豊かさにつながる場をつくってこられたのは、本当に素晴らしいです。
須藤 時代が良かったんです。いまだったら無理でしょう(笑)。
「自分の身は自分でコントロールする」ことが大事ですね。
――ここからは、須藤さんの元気の秘訣について質問させてください。
須藤 私はことし70歳になりますが……。
友香 信じられない!
須藤 私も信じられないんですけれど……(笑)、ソシエを退任して65歳で会社を起こした時、「へえ、そんな歳で」って言う人がいました、いまは人生80年どころか、人生100年じゃないですか。それを考えたら、65歳で起業している人なんていっぱいいるし、みんな夢を持っていないなと思いますね。
友香 何歳になっても夢は持てるし、チャレンジできますよね。なぜ、夢を持てないんでしょう?
須藤 そう、歳だからってね。ソシエにいた時、外国の方と仕事をすることも多かったですが、歳を聞かれたことは一度もなかったですよ。
――そういう海外の空気感とか価値観とかが……。
須藤 影響していると思いますね。いろいろな方とおつきあいしてきましたが、つねに一人の人間として評価し、信頼してもらえました。私自身、自分の仕事にすごく誇りを持っていましたし、なによりも他のエステティックサロンとは違う!という自負心がありましたから、そういった面で自分の思いを強く押し出していけたのかなと思いますね。
友香 「美は一日にしてならず」って、本に書かれていますよね? 頭ではわかるんですが、私は仕事が好きだし、やりたいことが多くて、美容のことは後回しになりがちなんです。須藤さんは、ラジオ体操を続けておられるんですよね?
須藤 ええ、毎朝やっていますよ。
友香 私は平日の9時からオンラインでヨガを教えていますが、これって参加する人がいるからできるんです(笑)。一人だったらさぼってしまったり、仕事しちゃったり……須藤さんは日々楽しく実践されていますよね?
須藤 たとえば、ラジオ体操にも方法があって、前日の体操の番組を録画しておきます。つまり、今日は昨日の録画をやってきたんですね。終わったら記録を消すので、つねに今日の録画は残っている、それを明日やるわけ。
だから、2つ残っていたらダメ(笑)。さぼっていたら、気持ち悪いでしょう? それもひとつやり続けるコツなの。
――ルーティンを続けていくには、ちょっとした工夫が大事ですね。
須藤 そうは言っても、普段はダラダラしていますよ(笑)。ゴールデンウイーク中だって、何をしていたんだろうって思うくらい。
――そこも参考になるのかな(笑)。そのほかに心がけていることはありますか?
須藤 朝、しっかり野菜を食べることは心がけていますね。サラダにして、沖縄の自然塩とオリーブオイルをかけてね。自分一人なので、体のことは気をつけないといけないですし、ましてコロナの状況のなかで、何かあったら大変じゃないですか。私一人の問題ではなくなるので、自分の身は自分でコントロールしないといけないということもあります。経営者であれば、そうした責任は必ず出てくると思いますね。
――あまりはめを外すことはできないと思いますが、日常のルーティンはあまり頑張らず、無理なくやれる形がいいですよね。
須藤 ええ。大変だと思うとストレスになりますから。朝はルーティンについては、もう自然な習慣になっていると思いますよ。
「朝のルーティン」でメンタルがリセットされますね。
――お話を伺っていくと、朝の時間帯で体調のベースがつくられているような感じですね。
須藤 朝はだいたい5時に起きて、ラジオ体操したり、お供えをしたり、お線香を炊いたり……そういう時間ってすごく大事ですよね。
――いちばん慌てそうな時間に、あえてゆっくりするという。
須藤 昔はそうじゃなかったですよ、慌てて家を出ていましたから(笑)。
――お供えとか、お線香を上げることも大事なルーティンだなと思うんです。きっかけは何かあったんでしょうか?
須藤 じつは、2016年の9月にソシエの代表を退任して、翌月にいまのマンションに引っ越したんですが、その翌年の正月、マンションのドアが風でバーンと閉まった際に手を挟んで、骨折してしまったんです。台湾の元部下が遊びに来ていましたが、みんなで救急車に乗って、大変な正月でした。
――なんと、そんなことがあったんですね。
須藤 血だらけになって、5針も縫うことになって。しかも、翌年の5月にもまた手を折ってしまって、(オフィスに飾ってある額縁を指しながら)その時は武田双雲さんにギブスに「骨折」と書いてもらったんです(笑)。
――武田双雲さんのところで書道を習っているんですよね。
須藤 ええ。「これを見せればいいよ」って。何か大変なことがあっても、こういう笑いに変えることが大事ですよね。
ただ、次の5月にもまた手を折ってしまって。普段はあまり信じるほうではないんですが、友達にすすめられてある方に観てもらったんです。そしたら、「動いてはいけない時に動いたからだ」って言われて。
――引っ越してはいけないタイミングだったということでしょうか?
須藤 そういうことなんでしょうね。それで、まず清めなさいと言われて、水まわりをお塩で清める方法を教えてもらったんです。それからですよ、神棚とかに手を合わせるようになったのは。伝統的なところを大事にしていくことで、メンタルがリセットされますよね。
――昔の日本人がやってきたことって、意識を整える装置になっていると感じます。
須藤 ほかにも、毎朝、玄関に塩を撒いているんです。
――玄関は体で言うと口にあたるので、きれいにしていたほうがいいと言われていますね。こうしたことって、正しいかどうかではなく、続けていった時の意識の変化を観察して、受け入れるのがいいのかなと思うんです。
須藤 ええ、信じる人は救われる(笑)。それもまた、朝のルーティンですよね。
――美容という点では、何か心がけていることはあるでしょうか?
須藤 第一印象がやっぱり大事だと思うんですね。年齢を重ねていても、ヘアスタイルとか肌の手入れとか、ちゃんとケアしていくことでものすごく印象が変わってきますから。自分の自信にもつながりますしね。
友香 やっぱり、日々のケアが大事なんですね。
須藤 私がずっと心がけているのは、自分で必ず肌の手入れをするということ。週に2回、ピーリングして、マッサージして、パックして……。あと、夜は必ずクレンジングすること。ちゃんと拭きとらないと、どんなに高い化粧品も(肌に)入らないですから。クレンジングしてポイントメイク落としをして、最後にコットンの繊維で汚れを拭きとるの。オイルクレンジグする場合も、ちゃんとコットンで拭きとったほうがいいですよ。そうやって、素肌をきちんとケアする習慣をつけることが大事ですね。
友香 なるほど。私もちゃんと生きよう(笑)。
須藤 友香さんはまだ28日周期でターンオーバーがあると思いますが、年齢が進めば進むほど、その周期がどんどん遅れてくるわけだから、今日の汚れは今日とるようにしないと。酔っ払って寝ちゃだめですよ(笑)。
クドクド言わない、「さっぱり」がとても大事なんです。
――最後に心構えの部分を伺っていきたいのですが……、チャレンジすることに恐れを感じる人って多いと思うんです。
須藤 チャレンジを大変だと思う人の心と、楽しいと思える人の心……、私は紙一重のように思っているんですね。
――大きな差があるわけではなく、紙一重なんですね。
友香 私は楽しいと思えますね。好きなことなら、何時間もできちゃう。
須藤 私も楽しいと思う。でも、苦痛と思う人もいるでしょう? その人にセンスがあっても、負担に感じてしまう人もいる。変わる人もいるけど、実際には、変わろうとしない人も多いかもしれないですよね。
――負担に思う人はなかなか変われないのかもしれませんが、変わっていく一歩手前の予備軍みたいな人はいますよね? こうなりたいけれどチャンスがないとか、これから変わっていきたいとか……。
須藤 いっぱいいると思います、場が与えられていないとか、それ以前に(自分の思いに)気づいていないもいるでしょう。
友香 才能を見抜いて、勇気づけることはすごく大事ですね。職場などでも、啓発してくれる上司いないと埋もれてしまうでしょうし。
――ここが紙一重にあたる部分かもしれませんね。
須藤 これだけ女性が活躍できない日本って、おかしいと思わないですか? 仕事って、男女の差がなく動くじゃないですか。特に私たちの業界では、男性ばかりだとダメなんですよ。男性の多くはサラリーマン的な考えを持っているので、仲間に甘く、かばうところがありますが、女性にはないでしょう? 女性は潔癖症なので、いやなものは許せない(笑)。男性と女性、それぞれミックスして初めていいブレンドになると思うんです。
――いまの社会は、そのバランスが悪いですよね。
須藤 そのことを理解していない上司が多すぎるんだと思うんです。ブレンドしたほうがいいんですよ、自分が言えないことを女性が言ってくれるわけだから。極端に言えば、人の使い方が下手だと思うんですね(笑)。
友香 須藤さんの職場では女性が多かったと思うんですが、どうやってマネージメントしてきたんでしょうか? たくさんの人を動かすコツとか、長く経営をされてきたなかで大事だと思ってきたことを教えてください。
須藤 いちばん大事だと思っているのは、さっぱり。
――ああ、さっぱり。
須藤 本当にね、女性の一番悪いのは、クドクド、クドクド言うところ(笑)。私が職場でずっと言ってきたのは、「この場で言いなさい」ということ。あとは言わない、その潔さが大事だと思います。
これは男っぽいとか女っぽいという話ではなく、言うべきことは言って、その後は行動をチェックしていけばいい。会社では女性が7割くらいで、部下もみんな女性でしたが、みんな私のことを怖いって言うんです。
友香 うちの会社もおなじかも(笑)。
須藤 でも、それってすごく良いことだと思います。たとえば、私がガーッと怒っても、あとで(創業者である)会長がフォローしてくれる。もちろん、代わりに会長が怒っていたら、あとで私がフォローすることもありましたけれど。
友香 須藤さんも怒っていたんですね。
須藤 怒っていましたよ(笑)。「須藤さん、怖い」ってみんな言いますが、なんだかんだとついてきてくれたのは、自分に対しても厳しいですし、そういう背中を見て納得できるところがあったのかなと思います。まあ、厳しかったかもしれないけれど、あとでクドクドは言わない(笑)。
――さっぱり。
須藤 そう、さっぱり。そうでないと、おたがいストレスですよね。(言いたいことを言わずに)ずっと思っているとストレスになるので、言うことを言ったらもう次のことに切り替えていく、その「切り替え力」も大事ですね。
友香 「切り替え力」は、セルフメンテナンスにもリンクすると思います。自分のご機嫌をとっていかないと、悪いほうへ引っ張られちゃいますよね。
須藤 スタッフにも、これはもう切り替えちゃおう、この方向でやろうって言ってあげれば、次に向かっていけるじゃないですか。いまのコロナもおなじですよ。(自粛、自粛と言われながら)なぜこんなに我慢できないかというと、先が見えないから。これを我慢すればこういう生活に戻れるんだよと、誰もハッキリと言いませんよね。それって、責任がとりたくないからですよ。
――ちゃんとメッセージすれば、もっと協力すると思いますよね。
須藤 話が脇道に反れてしまいますけれど、日本の政治家の3分の2以上は、企業経営をやったことがある人がやったほうがいいと思いますよ。いまのように政治家上がりの方たちだけでは、絶対にだめですね。
――確かにリアリズムがないような……。
須藤 本当にそう。何のためにやっているのかと本当に聞いてみたい(笑)。
友香 経営していたら絶対政治家になりたくない(笑)。
須藤 なりたくないですよ。文句を言ってもしょうがないねって思うだれど、あの構造を見ていたら人は育たないと思いますよね。
――須藤さんにお話を伺って、美しく生きること、しっかりと人生設計をしていくこと、そのバランスが大事なんだと感じました。
須藤 こういう時だからこそ、変わっていけるチャンスだと思いますよ。
――はい、話は尽きないですが……。今日は、お忙しいなか本当にありがとうございました。
(終わり)
須藤政子 Masako Sudo
1973年、株式会社ソシエ・ワールドの前身、株式会社髙橋商事の理容室に入社。1981年、第一号店「ソシエdeエステ銀座ワールド店」店長に就任。以後、営業部長、エステティック事業部担当常務取締役、専務取締役、代表取締役専務を経て、2007年、株式会社ソシエ・ワールド代表取締役社長に就任。2016年、株式会社ソシエ・ワールド代表取締役社長を退任、株式会社TESIOインターナショナル(テシオ)を創業。「美を通して社会に貢献する」を社是にに、エステティシャンの国際ライセンスの取得講座やコンサルタントなど幅広く活動。(公財)日本エステティック研究財団理事。認定NPO法人 日本エステティック機構理事。(一社)人日本エステティック試験センター評議員。http://tesiobeauty.com/
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